1. 倍音とは何か(前提)
• 基音:音の高さを決める基本周波数
• 倍音:基音の整数倍(2倍、3倍…)の周波数成分
• 実際の楽器音や声は、基音+多数の倍音で構成される
倍音の構成比率が音色(ティンバー)を決定します。
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2. アナログレコードで倍音が生まれる要因
① 機械的トレースによる非線形性
レコードは
溝(物理形状) → スタイラス(針) → カンチレバー → 発電機構
という完全に機械的なプロセスを経ます。
この過程には必然的に:
• 微小な歪み
• 非線形な追従誤差
• 摩擦・弾性変形
が生じ、これが自然な倍音生成につながります。
👉 特に発生しやすいのは
偶数次倍音(2次・4次)
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② カッティング時の倍音付加
マスターレコードのカッティング工程でも:
• カッティングヘッドの非線形性
• 高域制限(溝の物理限界)
• RIAAイコライゼーション
により、高次倍音のバランスが変化します。
その結果:
• 高域が耳に刺さらない
• 中低域が豊かに感じられる
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③ RIAAカーブと倍音の知覚
レコードでは:
• 録音時:低域を削り高域を強調
• 再生時:低域を持ち上げ高域を下げる
この処理により:
• 基音と低次倍音が強調され
• 高次倍音は穏やかになる
👉 **「滑らかで太い音」**と感じやすい
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3. 偶数次倍音が「心地よい」理由
人間の聴覚心理として:
• 偶数次倍音 → 基音と協和
• 奇数次倍音 → 金属的・硬質・刺激的
アナログレコードでは:
• 偶数次倍音が多く
• 奇数次倍音が相対的に少ない
ため、
「温かい」「ナチュラル」「音楽的」
と評価されやすいのです。
(真空管アンプの音と似た傾向)
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4. デジタル音源との対比
特性 アナログレコード デジタル音源
倍音生成 再生過程で自然発生 基本的に発生しない
歪み 低次・偶数中心 高次・量子化歪み
音の印象 温かい・厚い クリア・正確
非線形性 常に存在 理論上ほぼゼロ
※ 近年のデジタルは非常に高精度で、違いは主に好みの問題です。
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5. 「レコードらしい倍音感」を左右する要素
• カートリッジの種類(MM / MC)
• 針形状(丸針・楕円・ラインコンタクト)
• トーンアームの質量と共振
• ターンテーブルの回転安定性
• フォノイコライザーの回路方式
👉 これらすべてが倍音バランスに影響します。
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6. 少し踏み込んだ視点(非線形と音楽性)
アナログレコードの倍音は:
• ランダムではなく
• 音楽信号に相関した非線形歪み
そのため:
• 音程感を壊さず
• 音楽的な厚みだけを加える
これは
非線形振動・カオス理論でいう「秩序ある歪み」
とも解釈できます。
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まとめ
アナログレコードの倍音は、
• 機械的・物理的な非線形性から自然に生まれ
• 偶数次倍音が多く
• 人間の聴覚にとって心地よい
その結果として
🎵 「音楽的で温かい音」
が生まれるのです。
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